成長した小夜子は性的魅力を備えつつありました。髪をおろし伸びるままにして、つぶらだった目の目尻は切れ込みがやや細長くなり、妖艶さを帯びてきていました。胸もうっすらとふくらみ、Tシャツの伸びた襟からたまに乳房が半分見えます。……私はもう、小夜子を異性として意識していました。そしてそれは小夜子も同じだったようです。

 小夜子は私に、度々おませな言動を取るようになっていました。下校中や、家で一緒に遊んでいるとき、芝居がかった様子で――私のことどう思ってるの? なんてふいに聞いてきたり、上目遣いに見てきたりします。日曜のお祈りの帰りに……ああ、家の敷地内には小さな礼拝堂がありました……小夜子が周りのみんなにからかわれるのも気にしないで、私の手を握ってきたときは慌てました。少女のほうが少女漫画かなにかの影響なのか、進んでいますね。

 そして、冬休みにみんなで茶屋街へ出かけたときのこと。茶屋街は天使の家からさほど遠くなく、行事時にはよく遊びに連れていかれたので飽きていましたが。高校生なら適当に用事を作って参加しない人もいました。でも京都ほどではありませんがそこそこ有名で、江戸時代の風情を残した綺麗な街です。

 レトロな雑貨屋を巡り、絵はがきや、金箔を使った小物などを見たあと、茶屋で抹茶を飲んでからそばの温泉宿に一泊します。その夜、みんなで大浴場に向かう途中、男女分かれる直前で私はつい小夜子の姿をさがしました。が、見つけられませんでした。……入浴をおえて廊下に出ると、小夜子がやってきます。女湯のほうからではありません。小夜子は宿の備品である浴衣を着て、髪を湿らせていました。

 なにか違和感を覚えて、まだデリカシーに欠けていた私は小夜子に風呂はどうしたのかと聞いてしまいました。小夜子は言葉を濁します。……それから小夜子は私の手を引いて、デートに誘ってくれました。男の子たちの口笛を背後に向かったのは、中庭に面した休憩所です。

 入浴しているあいだに、雪が降っていたようでした。窓から見える日本庭園がうっすら白く染まっています。私たちは長椅子に座って、その光景を眺めながらおしゃべりしました。会話の内容は記憶のかぎり――やあね、男どもはガキなんだから。影次(かげつぐ)くん、気にしなくていいのよ。

 私はうん、と相槌を打ちました。――でも最近は女もヤダ。あたしのこと男好きとか意地悪言うのよ。……あたし、もう影次くんさえいればいいや!

 浴衣の袖が引っ張られたかと思うと、ほんの一瞬だけ、唇になにかやわらかいものが触れました。シャンプーの香りと、すぐに体を離した小夜子の、ちらりと見えた胸の谷間。小夜子は一言二言、慌てた様子でなにか言うとそのまま去っていってしまいました。小夜子はこんなドラマを演じるためだけに私を呼んだのでしょうか。そのあと、私はトイレで陰茎を濡らしました。カウパーです。

 こうして私と小夜子は恋人の真似事をするようになりました。家に帰ってから私たちはいつも以上に一緒にいて、人目を忍んではキスを交わしました。かわいい思い出です。……ところで、一つだけ寂しく感じたことがありました。例の白髪で太っちょの先生とあまり関わらなくなっていたのです。

 基本、好かれている先生でしたが実は、一部思春期の女の子たちのあいだでは嫌われていました。遊んでいると先生がまざりにきてさりげなく体を触られる、セクハラ臭い、と噂が立っていたのです。小夜子もなにか心当たりがあったのか、先生を避けるようになりました。小夜子に嫌な思いをさせたくなかったので、私もそれに従っていました。当時は先生がそんな嫌らしいことしていたなんて、内心信じていませんでしたが。……今思い出すと私、結構脚を撫で廻されていたかも知れません。

 そろそろ、幼さゆえに私が招いてしまった崩壊の話をしたいと思います。単純な話です。ちょうど誰もいなかった家の図書室で、私と小夜子は戯れていました。小夜子がキスをせがんできます。小夜子が着ている部屋着のTシャツの襟は相変わらず伸びていました。唇を重ねます。ふっと獣欲がわきました。小夜子がヒステリーを起こした小動物のような声をあげて、私を突き飛ばします。

 私は、無意識に小夜子の胸を触っていたのです。小夜子が部屋を飛び出すと、自失している私のもとへ職員たちがやってきました。私はあっと言う間に捕らえられ、居間に連行されました。みんなが集められました。職員が私の恥辱的な罪を説明します。私は衣服を剥がされてしまいました。職員たちのなかに、もちろん先生もいます。先生は無表情で鞭を抜きました。

 一撃は、ぼんやりとしていた私の頭を冴えさせました。この恥知らず! と、職員の罵声が聞こえました。それから全身に切られるような痛みを与えられて、私はわめいたと思います。色々と体位を変えられて、視界から口元を手で押さえている小夜子の姿が見えたり隠れたりしました。……しばらくすると鋭かったはずの痛みは次第に麻痺してきたように感じられましたが、内股をとくに強く打たれて衝撃が復活した瞬間、私の意識はふわりと浮きました。苦痛に耐えられるようにと、脳がプレゼントしてくれた陶酔の境地でした。そこで刑の執行はおわります。

 私は勃起しました。が、すぐに萎えました。それからまた自失していましたが、夜になると現実に戻り、あまりの恥ずかしさに布団をかぶり縮こまっていました。鞭打ちの光景は周囲もショックを受けます。同室の男の子たちはありがたいことに、私を放っておいてくれました。そのうちみんな寝静まります。……私はひりひり痛む肌をさすっていました。

 なかなか寝つけずにいると、襖が細く開いて――影次くん、起きてるかい? 先生の優しい声でした。私を呼んでいます。身を起こし、男の子たちの眠りを覚まさせないよう注意しながら、一条の光を頼りに私は廊下へ出ました。久々にまともに見た先生。白髪がやや薄くなり、皺も深くなって老けていた事実に気がつきました。

 ――ごめんよ、痛かっただろう? と、先生が私の頭を撫でてくれます。私は我慢の限界に達して、先生のまるいお腹に泣きつきました。

 そのあと、六年生に進級する間近に小夜子が死にました。

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