小夜子は私に、夢を見ていたのでしょう。私のことを王子さまかなにかだと思っていたのかも知れません。当時の私にそんなことは察せず、汚い欲望で乙女の幻想を凌辱してしまった。鞭で打たれた私以上に、小夜子は傷ついた。事件のあと小夜子は抜け殻のようになっていました。……明日から春休みという日、一人で下校していた小夜子は信号の色が見えなかったようです。

 仲直りする機会を永遠に失ってしまいました。葬儀がおわってから私は塞ぎ込み、小夜子が死んだのは自分のせいだと思いつめました。そして慰めてくれる先生に、錯乱した私はまた鞭で打ってくれ、罰してくれと頼みました。

 ……最初に語った彼の場合は一回の罰で改心し、立ち直ることもできたでしょう。しかし私は初恋の人を裏切り、殺してしまったのです。私の罪悪感はあまりにも永続的です。もう一度、あの鞭打ちの痛みと、それを越えた先にある陶酔に気を紛らわせなければどうにかなりそうでした。

 先生は当惑した様子を見せつつも、承諾してくれました。夜中に迎えにいくから起きてなさい、と。私は夜更け、布団の中にいると気分が沈んで寝つけなくなっていたので、それほど難しい約束ではありませんでした。やがて先生がやってきて、私は礼拝堂の裏手へと連れていかれました。

 天使の家はミッション系の施設ではありましたがそれは形だけで、礼拝堂は日曜日とクリスマスに使われる程度です。……それが真夜中に、ステンドグラスからほのかに明かりが感じられたのと、なにか物音が聞こえたような気がして不思議に思いましたが先生はなにも答えてくれません。私はさっさと鞭で打たれたかったので、深くは聞きませんでした。

 パジャマを脱ぐよう言われても、不審に感じませんでした。鞭打ちの受刑者は下着のみになるのが通例ですから。……優しい先生の手による私刑で、しかも外なのに。先生はひざまずいた私の背中を撫でてから、鞭を振るいました。

 叩かれているあいだ、私は小夜子のことを思い出していました。私と同じく最初から家にいて、一緒に育ってきた小夜子。見る見るうちに私の陰茎を立たせるほど成長した小夜子。無邪気に、女の子同士のようにままごと遊びをしていたころ。無邪気に、恋人同士のように戯れていたころ。――ああ、ごめんなさい。おっぱい触ってごめんなさい。小夜子はタイヤに潰されてしまいました。

 涙を流し、陶酔状態に達した途端、小さく声を漏らしてしまいました。苦鳴とは異なる声の響きに反応したのか、先生が鞭打ちをやめて私の体を起こし、心配そうに様子を見てきます。先生は私の股間を凝視しました。私は下着をぐっしょり濡らしていたのです。……精通していました。

 それからしばらくして私はまた不安定になりました。鞭が欲しい。麻薬のようです。先生に再度頼みにいきました。今度は、どこか嬉しそうに承諾してくれました。礼拝堂に向かいましたが裏手に廻らず、先生は扉に手をかけます。

 開錠して中へ入ると、電灯があるというのに蝋燭の灯火が揺らいでいました。煤けたステンドグラスの聖母がぼやけて見えて、不気味だったのを覚えています。鞭で肌を打つ音と、呻き声が響いていました。薄暗さに目が慣れてくると、それは職員たちであることがわかります。さながら聖職者たちの苦行のようでした。

 なにがなんだかわけがわからなくて呆然としている私を差し置いて、先生はその場にいた施設長……神経質そうな顔をしていて、職員たち以上にそっけない印象のある人でした……と会話をはじめます。施設長は――大丈夫なのか? 先生――この子なら平気です。今のうちにちょっと才能を伸ばしてやれば旦那さまも喜ぶでしょう。初物を盗ってはいけませんが。施設長――この子は条件も容姿もいい、確実に選ばれるだろうからな。小夜子は残念だった。

 私は首を傾げました。でも、周りの状況のほうが気になります。職員の一人が長椅子に手をついて、でっぷりとした尻を突き出していました。別の職員がその尻を打っています。打たれているほうはなにかをひたすら謝っていました。また別の職員は壁に張りつき、背中を打たせています。講壇に寄りかかり、胸を打たせている職員もいました。みんな没入していて、私の存在など気がついていないようでした。

 先生と施設長が話をおえます。私は衣類を下着も含めて脱がされてしまいました。先生の鞭は私の尻を重点的に打ってきます。先生が小夜子のことで私を罵りました。私は許しを請い、叫び、達しましたが精水を放出することはできませんでした。肛門に覚えた異物感が邪魔だったのです。施設長が、持っていたロザリオの十字架で弄っていたのでした。

 ……先生がこのことは誰にも言ってはいけないと、私に言い聞かせました。別に口どめされなくとも、口外する気はありません。小夜子が死んでから陰気になった私は、家でも学校でも孤立しつつあったからです。そしてなによりも自慰を告白するような後ろめたさがありました。私はもう、鞭の快楽の虜になっていたのです。鞭打ちの宴のあと、私は手淫で放出しました。

 それから家で重度の、社会に適合できない子から小夜子が死んだのはお前のせいだなどと言われたとき、私は再び宴に参加しました。……職員たちが鞭をちらつかせながらも、家を完全に粛正しないのはきっと、子供たちを鞭で打てる機会を失わないようにするためでしょうね。

 こうして私は、私のせいで死にそうな女性に愛執を抱くようになりました。その罪悪感を快楽に変換するのが大好きです。最後に、おまけを一つ。

 私はある日、先生の自室に呼ばれました。先生は一着のかわいらしいワンピースとかつらを用意していました。ワンピースは紺色で、丸襟とカフスの部分だけが白く、膝までのスカートはふんわりしていたと思います。先生が私にそれを着て欲しいと頼んできました。私は恥ずかしさから渋りましたが、そのうち根負けしました。男の子らしい青色のラインが入ったくるぶし丈の靴下を穿いていましたが、ワンピースに合わないからと脱がされました。先生が靴下のことはすっかり忘れていたな、と呟きます。

 ワンピースを着て、かつらをかぶった私を先生は洗面所へ連れていきます。鏡を見せてくれました。……我ながらかわいかったこと! 小夜子と同じ、長い黒髪に感動したことを覚えています。

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