洗面所から引き返せば、先生が鞭を抜きました。私はスカートをまくり、尻を出して四つん這いになります。打たれながら、私は自分が小夜子になった妄想をしていました。――なんであたしが死ななきゃいけないの! 影次くんが死ねばよかったのに! ……非常に興奮しました。達して崩れると、先生がいきなり私の下着を剥ぎ、悪戯をします。後ろに指を捩じ込まれ、陰茎を愛撫されました。

 小夜子が凌辱されている気分になり、放出しました。先生は耐えられなくなったのかズボンの前を開けて、陰茎を私のスカートに包んで扱き、汚します。私は憧れていた女の子という性の疑似体験をしたのでした。……」

 原稿から視線を離すと、サテュロスと目が合った。鋭い形の目。今にも大声をあげて笑い出しそうな下品な口元。優美な巻き毛の長髪をもつ頭には、つのがはえていた。筋骨隆々とした上半身と、巨大な陰茎を立たせている山羊の下半身。女と美少年と酒を好む、そんな精霊の像の周囲で観客たちは手淫に耽っている。

「では、この辺で。次回は私がここ、人工楽園エデンに勤めるまでを語ります」

 立ちあがるとともに体内から、椅子と一体化していたディルドが抜けた。手の空いている客の拍手がまばらに響く。舞台をおりて、原稿をサテュロスの足元へ投げ出し、深々と客たちに頭をさげた。

「どうぞみなさま、私の人生を凌辱してください」

 男性は精水を、少ない女性はドレスをまくって腰を落とし、尿を原稿に振りかけた。手書きした文字が汚く滲んでいく。

「さぞかし君の小さなころは魅力的だっただろうなあ。そのころから会えていたらなあ」

 エデンに通いはじめたばかりの客が、原稿に糞を放りながら言った。もう判読すらできなくなっている。

「しかも引退してしまうなんて」
「……この催しがおわるまで、どうか愛玩してください」

 客たちが好き放題したあと、汚物の山ができた原稿を素足で踏んだ。屈んでサテュロスの石の陰茎に口づけて、吸茎をする。そのあいだ俺は客たちに色々と悪戯された。撫でる人、叩く人、入ってくる人。うっかり石にぶつけて、歯が欠けないようにする。たかぶった客がなにか罵声をあげた。この様子を、カメラを構えた旦那さまが広間の片隅で収めている。

 そのまま客たちが満足するまで身を捧げると、丑三つ時になってしまった。使用人たちがその場を手早く掃除して、俺の体もかんたんに清めてくれる。それから添い寝をする予定の旦那さまに、ベッドが汚れるかも知れないが気怠いから入浴は朝でもいいかと聞く。

 旦那さまは笑ってうなずいてくれた。広間を出て、途中階段の踊り場のポールに全裸で拘束されていた女奴隷を尻目に、三階右ウイングのいちばん奥にある旦那さまの部屋に向かった。廊下に並んでいる一枚の板チョコレートのようなドアとは違う、両開きの重厚なドアを開ける。

 メンズコルセットを外し、円形のベッドに腰かけた。解放感に息を吐きつつ、なんとなく目の前の棚を見る。樹脂で固めた様々な種類のカタツムリの殻が置かれていた。梅雨なら道端でよく見かける地味なものから、赤と黒のマーブル模様の派手なもの。ほかには乾燥させた褐色の薔薇、猿の髑髏、エロチックな写真集と画集。旦那さまの表のコレクションたち。

「サテュロスに口づけをするお前は、この絵画にそっくりだ」

 ダークグレーのスーツと、下着まで脱いだ旦那さまが隣に座り、俺が視線を向けていたほうからやや逸れた位置を指差した。指の先、壁にかけてある色彩がけばけばしい、南国の昆虫標本の横には木炭と鉛筆で描かれた絵があった。月夜、サテュロスの像に裸の少女が絡みついている絵だ。少女のそばには目隠しのキューピッド。

「旦那さま……」
「さあ、もう寝よう」

 照明を消して布団に一緒に包まり、肌を合わせる。旦那さまの老いながらも精悍な顔立ちを眺めつつ、俺は静かに泣いた。子供のころの、寝る前の憂鬱な気分を最近ぶり返していた。



←前次→

[一覧に戻る]

- XRIA -