それから暇さえあれば、彼女に面会しにいきました。使用人に檻の扉を開けてもらって、彼女と話し、寄り添い、抱き合いました。旦那さまに頼みにもいきました。頭をさげて――どうか、伊織を助けてくださいと。しかし旦那さまは――お前たちは私の子供ということで、やや特別扱いされてきただろう? それで恩赦までしてやったら、いくらなんでも楽園から辺獄に堕ちるはめになってしまったほかの奴隷に悪いよ、とそこは厳しく一蹴します。つづいた――それに、いいのかい? またつまらなくなってしまわないかい? という言葉に、心臓が飛び出すんじゃないかと思いました。旦那さまはどこまでお見通しなのでしょう?

 確かに、私は伊織に対する情を復活させると同時に、劣情まで復活させつつありました。性癖という名の病根はもうどうやっても引っこ抜けないのでしょう。私は伊織と檻の中で実にプラトニックに触れ合っていましたが、彼女を覆うガーゼの量が増えていくたび、彼女を抱いてみたいという久しぶりの欲求を覚えている自分に気がつきました。できたら、私へ鞭打ちの補助つきで。自室では伊織を思い、自分が堕ちればよかったのにと涙しつつ、手淫に耽ります。

 そのうち、我慢できなくなりDVDを求めました。彼女が受けている責めの内容が収録されています。私が会いにいくまでの数日は、使用人たちからただただ暴行されていました。女の子のやわらかい体に、加減はされているでしょうが残酷に殴打が加えられます。

 ほかは使用人と、リンボ通いのお客さまからイバラの鞭で打たれていました。白い体はあっと言う間に赤く染まってしまいます。このころから、傷口から滲んでくる血で伊織の包帯はすぐに汚れてしまうようだったので、私がよく取り替えてあげました。

 お客さまに、蝋燭に点けた火で手の平を炙られていました。ペンチに似た道具で奥歯を抜かれていました。彼女はお母さん、お父さんと泣いていました。訪ねると、リンボの奴隷特有の死んだ表情で彼女は――がんばる、がんばるから。と、私にしがみつき、しゃべれる鳥みたいに繰り返します。

 胸が張り裂けそうになりました。しかし、猟奇趣味に満ちた私の日常は潤いました。お客さまを歓待するとき、脳裏に辺獄の恋人のことを浮かべると情熱的になれます。加虐的な趣味のお客さまであれば、さらに。……笹沼ご一家のあのご子息がいればな、とDVDを見ながらふと思いました。彼は私も彼女も、ひどくいじめてくれるでしょう。

 悦と悲しみ、相反する感情に悶えてしまいます。このままでは彼女は体のどこかを切断されたりして、惨苦を極めることになってしまうでしょう。そうなる前に、私が勝手に煩悶しているうちに、彼女は自殺しました。賢い判断です。

 がんばる、と言いつつも彼女の精神状態はもう正常でなかったと思います。いえ、むしろその言葉ばかりで会話が成り立たないことが多々ありました。そしてとうとうがんばれなくなった彼女は傷ついた体の力を振りしぼり、壁にある、鞭をかけてあったフックを利用して首を吊ってしまったそうです。普通、拷問器具のたぐいは檻から出る際に使用人が片づけるものなのですが、忘れてしまったのでしょう。監視カメラの映像を確認したとき、彼女はすでに鞭で首をつないだフックのみを支えに壁際で脱力していて、手遅れだったとのことでした。

 旦那さまから伊織の死を伝えられても、連れられて檻の中、金属のベッドに横たえられている彼女の死体と対面しても、私は至って冷静でした。幼少のころのトラウマを再演しているというのに。悲惨な様子の死体を見たときはさすがに小さく悲鳴は出ましたが、彼女はもっと人の形を保てなくなってから果てる運命にあると思っていたので、あまりのあっけない死に拍子抜けしたのか。それとも単純に、色々な感情が麻痺してしまったのか。

 それから、なんの計らいなのか伊織の死体と二人きりにされます。改めて彼女を観察してみました。首にあるはずの索状痕は血で見えず、そこから首から下、乳房まで、青白いくらいになった肌に線状の乾いた血が伸びていました。リンボの鞭には棘が生えていますからね、普通の首吊りより格別につらかったでしょう。それでも今後のことを考えたら、こちらのほうが楽なのでしょう。

 表情は目を半開きにして、口もぼんやり開いていて、舌が突き出ています。あまり綺麗なものではありません。でも死体は、そうですね、悲愴美とでも申しましょうか。……やはり私は落ち着いているようでいて、頭がどこかおかしくなっていたのかも知れません。我ながら不可解な行動を取りました。

 彼女の首筋に口づけて、血痕に舌を這わせたのです。そして凝固した血をざりざり舐めてから、陰茎を取り出し、彼女を貫きました。ただ、当然ですが冷えきり、乾いていたので唾液で濡らしました。さして気持ちよくはありませんでしたが時間をかけて、私は死に向かって放出したのです。

 後日、もちろん私は伊織の死の瞬間を撮った映像を観賞しました。凄惨な拷問を受けおわった彼女はしばらくうずくまっていましたが、やがてうつむいていた頭をあげるとフックにかかって垂れている鞭に気づいたのか、そこにじっと虚ろな目を向けます。少しして緩慢な動きで立ちあがり、ふらつきながらフックに近づくと工作をはじめました。手を棘で傷つけつつ、背伸びして鞭をフックに結わえつけ、短めにあまらせた先端でぎりぎり頭が通せる程度の輪っかを作ります。

 輪をしっかりと掴み、跳ねるようにして頭を通します。この時点でよく挫折しなかったなと思いました。そういえば、彼女の遺体は手の平にも血がこびりついていました。鞭の棘が首に食い込み、血の小川が何筋も胸元へ流れます。しかもフックはたいして高い位置にあるわけではないので爪先は床を掠り、中途半端に首が絞まります。早く楽になりたいとでもいうように時折膝を曲げて宙に浮きながら目を見開き、舌を突き出して蛙の鳴き声に似た喘ぎを漏らしていました。

 彼女自身も恐らくそうだったように、苦悶は見ていてとても長く感じました。しかし、それは唐突におわります。失禁が脚を嫌らしく伝った途端、もがいていた彼女の体から力が抜けて静かになり、瞼が半分落ちました。事切れたのか、まだ気を失っただけなのかはわかりませんが、こうして彼女の二十二年とちょっとの人生は幕を閉じたのです。以後、いっさいの動きがやみました。……あっ」

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